基準はどのような場合であっても単一の基準であるべきです。
平常時の公衆の被ばく限度が年1mSvであれば、どのような規模の原子力事故が起きた場合でも公衆の被ばく限度は同様に年1mSvとすべきです。
原子力事故が起きたからといって、目標とすべき参考基準を別に設けたり、事故時や回復期など時間の経過でそれを変化させたりすることは、それらの基準が法律に位置付けられる場合、制度としての合理性を失うことにつながるからです。基準を設けることの意味を失うからです。
理由は次の通りです。
第一に、単一の基準は、原子力事業者がその基準を超える放射線を、管理しない状態で環境中に放出することを抑制及び規制する効果をもたらします。基準を超えた被ばくを公衆に与えうる事故を起こすことが違法と見なされることが、基準の存在意義なのです。事故が起きた途端に、基準が引き上がるのでは、放射線防護の効果がないも同然です。
第二に、単一の基準は、誰もが放射線防護を受ける権利を行使する効果をもたらします。もしも原子力事故が起きて、基準を超える放射線防護を受ける権利が侵害されるのであれば、権利侵害として補償されるべきであり、健康被害から逃れるための避難の選択権が与えられるべきです。事故が起きた途端に、基準が引き上がるのでは、人々の権利を守ることができません。
大規模原子力事故を理由に二重、三重、それ以上の基準を設けることは、法制度の関係において、あってはならないことです。放射線以外に、事故が起きたからといって人々を健康被害から守るための基準が変化する物質は聞いたことがありません。
ですから、平常時の公衆の被ばく限度を年1mSvとするのであれば、どのような規模の原子力事故が起きた場合でも同様に年1mSvとすべきです。