Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident


Draft document: Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident
Submitted by 勝守 真知子, None
Commenting as an individual

(ICRP勧告草案についてのパブリッシュコメント)

 ― 内部被曝の危険性と諸問題 ―
                   東京都武蔵野市 勝守 真知子      
              

今回ICRPより示された新しい放射線防護の基準について強い懸念を表明いたします。
従来の基準を変えるべきではありません。
放射能汚染地域に暮らすということは空間線量では測れない内部被曝の危険性が大きく、このことが新しい勧告には反映されているとはとても思えないからです。

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以来、8年半をへてなお福島県の一部地域はいまだ原子力緊急事態宣言発令中です。
これは従来の勧告の基準で行われたものですが、いったん原発事故が起こるといかに回復困難な状況になるかを示しています。

検討されている新しい勧告の基準は緊急時100mSv、回復期10mSvとなっています。
100mSv以上は放射線の人体に及ぼす確定的影響がある数値とされています。
勧告は言い換えれば、この数値になるまで避難しなくてよいと言っているのと同様です。

自分がここで強調したいのは、これはあくまで空間線量の基準であって被災者の内部被曝の数値を規制するものではないということです。
放射能汚染された物質が人体に取り込まれ、微量であってもそれが排出されずに留まった場合、その放射線の影響は半減期以上の期間、人体に悪影響をもたらします。
内部被曝はホールボディカウンターなどの大型の装置でないと測定できず、頻繁かつ手軽に測定するわけにはいきません。

たとえ空間線量が回復期の10mSv未満であっても、いったん汚染された地域で暮らすということは飲料水や生鮮食料品の残留放射能、そしてホットスポットからの塵埃が人体内部に侵入する危険が日常的にあるということです。例えば飲料水の現在の放射能残留基準値は1L当り10ベクレルですが、これは福島第一原発前の平均値の約25万倍です。また食品の残量放射能基準値は現在1キロ当り100ベクレルですが、これは事故前に日本人が口にしていた食品の平均の数千倍にのぼります。
それらの数値が低レベルであったとしても低線量被曝が継続した場合、しかも人体内に取り込まれた放射性物質に被曝したの場合の被害については医学的にもまだ検証されていません。しかし過去のヒロシマ、ナガサキの原爆被害やチェルノブイリ事故の後の人々の健康被害を見れば、確実に悪影響が出るであろうことが予測されるのです。

地球上にはバックグラウンドとして自然界から来る放射能があるではないかという反論が来るかもしれません。
しかし宇宙や地球自体から出る放射能に対しては人類は進化の過程で長い時間をかけて耐性を獲得してきました。
それに対し、原発事故などから放出される人工的な放射能にはまだ人体は適応できておらず、被曝量を厳重に管理する必要があります。

日本の「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」によれば{放射線管理区域は外部からの実効線量は年間5.2mSv}、{外部被曝と内部被曝が複合するおそれのあるばあいは線量と放射能濃度のそれぞれの基準値に対する比の和が1}と定められています。放射線業務従事者でさえ、1年間につき50mSVを超えてはならないと定められているのです。
この法律を無視し、国内に二重基準として「緊急時100mSv、回復期10mSv」の枠をもうけることは法治国家の原則を放棄し、地域の住民の生命をないがしろにするとしか思えません。

もし再度原発事故が起こったとして、空間線量が年間100mSvを上回らなかった場合、強制的避難指示は出ないことになります。
汚染地域に居住している間に摂取する水や食料から放射性物質は容易に人体に入り、器官や臓器に蓄積されることは充分に想像できます。
たとえ水や野菜を現地産でないものに切り替えたとしても、どこから経口で侵入するかわかりません。事故直後の混乱では水、食料の入手にも困難をきたし、選ぶ余裕はなく手に入るもので我慢をせざるを得ません。
放射線に対する感受性の高い子どもや妊婦は深刻です。子どもは一人では他地域へ避難できないので家族が現地に留まると言えば汚染リスクのある地域にとどまらざるを得ません。

汚染地域に住み続けるということはたとえ空間線量が年100mSV以下であっても、内部被曝の危険がつきまといます。
それを避けるためには遠隔地へ避難すること以外確実な方法はありません。

今回の改定の背景として「汚染予想地域から避難するリスクの方が、そこに留まって被曝するリスクより高い場合は留まって被曝と共存する」という考え方があると聞きます。これはおかしいです。サバイバルゲームで、冒険しても動いて生き残る道をとるか、そのまま緩慢な死を選ぶかと迫っているようなものです。
冒険しなくても安全に避難できるような手立てを準備するのが為政者の責務です。
もし住民に避難するかどうかの判断をゆだねて住民が留まるとしたらその生活の支援や医療、介護など、住民をサポートする立場の人々の安全はどう確保するのかが問題となります。

台風や地震などの自然災害は甚大でも起こった時だけの被害ですが原発事故はいったん発生すると長期に被害が及び、放射性廃棄物や汚染水の処理などの解決できない問題が山積みとなります。
そもそも人類はこのような危険物と共存できません。しかもこの危険物は人間が作り出したものであり、人間に「絶対に失敗やミスをしない」ことなどないのです。

ICRPには勧告の改定よりも、せめて現在の基準値を厳しく維持し、守られているかを耐えず監視することを求めます。
                                                                                                                                  

                                                                                                                                                                                          以上


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