Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident


Draft document: Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident
Submitted by Yukiko Tanaka, N/A
Commenting as an individual

大規模原発事故時の新たな防護基準の策定にあたり意見すること

 

 

今回のパブリックコメント募集にあたり、日本語での投稿を許してくださったことに感謝いたします。

 

サマリー

・今回の改案の原発事故後の放射線被ばく防護基準を、単に「100mSv」「10mSv」とすることに反対します。

・被ばくを少しでも望まない人にも選択肢があるよう、指標をガイドラインに追加願います。

・最も緊急度が高い事故直後を除き、基準値の変更や設定においては当該基準策定地における住民との対話を十分に取り、当事者が納得したうえでプロセスが実行されることを希望します。

 

 

1.大規模原子力発電所事故後の放射線被ばく防護基準、指標値の改定について

 福島における避難指示解除の要件の一つに、空間線量の年間積算線量が20mSv以下であることが挙げられますが、20mSv以下になることが予測されて避難を解除されたのち、「長期目標を1mSvとするべく対策すること」と、うたいながらも具体的方策のないままに解除が行われています。

 解除後の住民への策として実施されているのは、「住民への不安解消」といった啓蒙事業で、電話相談・放射線教育がメインの取り組みとなっており、知識をつけたとしても被ばくを避けられているとは言い難い状況です。

 また、現象で年20mSv程度の放射線積算量が、年1mSv以下となるのは自然の減衰を待つだけならば世代が入れ替わる程の年数が必要です。無策によって住民が被ばくし続けることは許されないでしょう。

 

 ICRPは一般の人々の健康を守るため、1年間に受ける被ばくの量の上限を1mSv以下と定めていて、日本もその勧告を採択していますが、いまだ一般の人が受ける量よりも多く被ばくせざるを得ない状況となっている地区があります。注1) 注2)

 

 重大な原子力発電所の事故があった後で、緊急的防護措置を経て現存時を経過中の福島では、「一般の人」として1mSv以下の環境を欲したとしても、自らが受ける放射線の量を自身で選択できる状況にありません。

 

 改定案において参考レベルの数値は、「ある程度の対策が進んで」目標値以上の人数が減れば、目標値もまた下げていくことで、できるだけ被ばくの低減に努め、年1mSv以下に少しでも近づけることが提唱されています。日本が福島においてこのようなプロセスを採択し、この改定以降、実際実行に着手すれば、循環モデルとして素晴らしい防護対策となるでしょう。しかしながら前述の状況のように低減への努力がなされていない現状で、現存時の被ばく防護基準が「年10mSv」との指針となれば、「1mSv」にするための努力・施策もまったく考慮に入れなくてもよい状況が当然のこととなる可能性があります。よって現存時の指標値を単に「年10mSv」とすることに反対します。

 同じく緊急時の参考レベルの数値は「100mSv」と改定されるとのことですが、福島の避難区域は現勧告の下限値である20mSvを指標として実施された経緯を考えれば、下限値を無くした改定案がもたらすものは、無用な被ばくであることは想像に安易いでしょう。下限値のない数値の提示をすることに反対します。

 

2.被ばくを望まない人に選択肢と保証を

 被ばくを避け福島から自主避難されている人々がいます。一般の人の被ばくの量の上限を1mSvとしているわけですから当然にそれを享受する権利があると考えます。

たとえ1mSvの指標が無かったとしても、事故によってもたらされた環境の変化がある限り、人が生きていくうえで「被ばくしない選択肢」も選べるようにするべきではないでしょうか。

 避難のガイドライン中に、住まないことを選択する余地があること、また住まないことを選択する人々にも保障が与えられるような案の追加を、ご再考願います。

 

3.「勧告」は社会の期待に応えているか?

「勧告」は誰のためのものでしょうか。

 

 2019.9.11付、東京新聞が報道した福島における避難指示が解除された10市町村の人口動態によれば、2010年国勢調査と現在(2019年)を比較したとき、10代の帰還住民は7つの町村で全帰還住民の0%〜5%以内であり、解除後に戻る10代以下は少ない傾向にあることがわかりました。注3

 2018.3.3付、朝日新聞に記載の福島県民世論調査では、66%もの県民が「放射性物質に不安を感じている」と回答したと報道されました。注4)

 

 100mSv以下、低線量での被ばくが及ぼす人体への影響が明確になっていないにもかかわらず、1mSv10mSv20mSv100mSvという数値のみが緊急時および現存期時の被ばく量の参照レベルとして提示されていること、そしてその数値が基準となる科学的根拠が具体的に明らかにされていないままあらゆる基準が策定されていることへの不安が、前述の動向に現れているのではないでしょうか。

 例えば20mSvの許容が何を意味するのか。

 電離放射線障害における労災認定基準は過去の判例を参考にするならば、放射線による影響に因果関係が認められた白血病は「年間5mSvの被ばく × 従事年数」かつ「被ばく開始後1年以上経過して発症」とされており、低線量でも「安全」ではなく、確率の問題であることを示唆している。

 

 安全のプロパガンダを共鳴させることに警鐘を鳴らす方策も勧告の中に明確にすることが必要であると考えます。

 

 『チェルノブイリと福島の原子力事故では緊急時及び回復期の防護基準が厳しかったことによりマイナスな影響を与えてとしている』として、原子力発電所事故後の避難の解除や、高線量地域での居住継続を位置づけてしまうことは、「マイナスな影響」という名前の天秤に、経済(お金)と命とをかけているとも言え、経済のためにもともと持っていた人権をも、当事者が放棄せざるを得ない状況に追い込んでしまっているように思えます。

ICRPの勧告にこそ、当事者たちの声が必要なのではないでしょうか。

 トップダウンの方策や基準の策定ではなく、そこに住んだり関わったりする全ての当事者が、参画し十分な話し合いの機会を得て、勧告を定められるよう希望します。

 

------参考資料-----

注1)『復興庁 Reconstruction Agency』福島県内における年間外部被ばく線量推計の推移4次〜12次(H2329) 航空機モニタリング結果

   http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/jishu/material/20180713_siryou4.pdf

注2)原子力規制委員会HP 福島第一原子力発電所の20km圏内・外のモニタリング結果について 

   https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/206/list-201903.html

   https://radioactivity.nsr.go.jp/en/contents/14000/13330/24/207_20190315.pdf

注3)『東京新聞』 2019.9.11 朝刊 第4

http://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1149

注4)『朝日新聞』 2018.3.3 朝日デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASL2V451NL2VUZPS003.html

 


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