ICRP新勧告案についての意見
井野博満(INO Hiromitsu)
6.CONCLUSIONS の Table 6.1. は、次のように書き直されるべきである。本文の記述も、それに合わせて書き直されるべきである。
その1
緊急時(Emergency exposure situation)における公衆(Public)の被ばく限度(Reference level)は、5mSv/年とすべきである。100mSvまでを許容する被ばく限度(Reference level)の設定は無謀である。
理由:そのような危険性のある原発は立地条件が不適切であり、建設・運転をおこなうべきでない。ICRPは、原発の存在を前提として提言するのでなく、公衆に多大な被ばくを強いる可能性のある立地条件であれば、放射線防護の専門家集団として、原発建設の中止を提言すべきである。
その2
回復期(Existing exposure situation)における公衆の被ばく限度参照レベル(Reference level)として10mSv/年以下という数値が提案されているが、この数値は5mSv/年以下と改められるべきである。
理由1:10mSv/年という数値は、今までISRPの勧告などに使われたことがなく、また、理論的根拠もない数値である。
理由2:5mSv/年という数値は、放射線管理区域が守るべき被ばく線量の上限であり、これ以上の数値の被ばくを公衆に強いるのは不合理・不公正である。
理由3:チェルノブィリ法で示されている避難の自由・権利ゾーンは、5mSv-1mSv/年に対応する放射能汚染レベル地域であり、それとの整合性を考えるべきである。
その3
回復期における公衆の被ばく限度の目標(goal)は、今まで通り、1mSv/年以下と明確に記載すべきである。
理由:公衆の追加被ばく線量は、原則的にはゼロであるべきである。ICRPが勧告してきた1mSv/年以下という数値は、核開発に伴なって公衆の被ばくが生じざるを得ないことを認めたうえで、公衆に健康被害が生じることをなるべく避けるという現実的な数値と理解される。この数値を緩和する「1mSv/年の程度(order)」という表現は使うべきではない。
その4
回復期のおける被ばく低減の方策の柱として、避難・移住の自由・権利を明示し、参照レベル5mSv-1mSvに対応する放射能汚染地域は、避難・移住の自由・権利ゾーンでもあるとすべきである。
理由1:放射能汚染地域に住まないようにすることは、被ばく低減の重要な方策であるという当たり前の事実を想起し、ICRPはその実現を支持すべきである。
理由2:回復期に住民が被災地に戻るか戻らないか(留まるか移住するか)は、その地で受ける被ばく線量だけでなく、家族構成や生活基盤の確保などさまざまな要因を考えて判断される。その多様性を許容するには、行政の基準を一律にするのではなく、ある幅を持った基準にすべきと考える。