ANNEX Bについて
1.本勧告案は、「(福島原子力)事故後の 10 年間に得られた教訓とともに、これらの問題のいくつかに対処することを意図している。」とあるが、ANNEX B福島では行政上の経験が主で、住民の経験についての記載は不十分である。
(1)勧告案のANNEX B福島(B8)では、「子どもに対して、ICRPが勧告している一般の公衆限度1mSvの20倍、日本の法令で定められる放射線管理区域の基準の4倍もの被ばくを強いることは受け入れられない」と市民が抗議したことを記載すべきである。
(2)ANNEX B福島(B30)で「福島県及び関係市町村並びに住民との間で協議・調整を行った。」と記されているが、住民に対してはなされたのは「協議」ではなく、重要な政策決定がなされたあとの「政策の説明」であった。
(3)2011年4月に日本政府は年20mSvを基準として計画的避難区域を設定した。しかし、計画的避難区域の外側にも同様の汚染が広がり、少なからぬ人たちが自主的に避難を決断した。こうした自主的避難者の状況についてのANNEX Bには記載はない。
(4)ANNEX Bで参照している文献が偏っている。避難政策や被ばく防護に関して日本政府の方針に対して批判的なレポート、文献、各種報道、被害者の声やその置かれた状況に関する資料についても参照すべきである。
一例:Masashi Shirabe, Christine Fassert and Reiko Hasegawa (2015), From risk communication to participatory radiation risk assessment. Fukushima Global Communication Programme Working Paper Series 21.
http://i.unu.edu/media/ias.unu.edu-en/news/12850/FGC-WP-21-FINAL.pdf
(6)ANNEX B(B42)「地域がん登録から推定される甲状腺がんの有病数より数十倍のオーダーで多く発生している」こと、地域別に有意な発生率の差がある。福島原発事故後の甲状腺がんに関して、被ばくとの関連を否定することは時期尚早である。
2.共同専門知プロセスco-expertise(7)(50)(204)について
共同専門知プロセスco-expertiseの役割を強調しているが、わかりにくい言葉である。日本においては、政府、自治体の責任を市民に転嫁するものとなる恐れが大きい。このプロセスを強調するより、広範な人々が被ばく防護に関する政策決定に参加する権利、被ばくを避ける権利を保証すべきである。そしてこの権利を実行する政策決定の過程において専門家の専門的知識・情報が必要となり、実質的にこのプロセスを踏むことになる。ことさらに「co-expertise」を規定する必要はない。