原子力事故時の放射線被ばくについては、短期100mSv、長期1,000mSv/年を避難基準とすべきです。
(1) ICRPの非人道的な二重基準
ICRPは、一般公衆の年間被ばく限度を1mSvとする一方で、職業人に対しては50mSvを同限度としています(ただし、5年間累積で100mSv以下)。更に緊急時には、一度に250mSvまでの被ばくも許容しています。
これは完全な二重基準であり、非人道的です。
一般公衆は年間1mSv以上の放射線を被ばくしたら、健康に害があるのです。ならば、職業人でも同じです。我々が放射線従事者指定を申請したからと言って、肉体が耐放射線仕様に改造される訳ではありません。それを、職業人なら50mSvまで被ばくを許容するとは、健康被害を前提とした非人道的な基準でしかありません。
更に緊急時なら一度に250mSvの被ばくも許容範囲とは、もう人道犯罪です。職業人は一般公衆の250倍の健康被害を甘受して職責を全うせよと言うのです。
(2) LNT仮説が諸悪の根源
こうなるのは、「放射線は例え極微量であっても健康には有害で影響は累積して消えない」とするLNT仮説が前提だからです。ICRPは、未だにこのLNT仮説から脱却せず、一般公衆の年間被ばく限度1mSvを墨守しているのです。その結果、職業人にだけ基準を緩和するのは非人道的となる訳です。ただし、職業人に250mSvの被ばくを許容している背景には、実は統計的事実の裏付けがあります。すなわち、ICRPもLNT仮説の欺瞞性に薄々感づいているのです。
(3) 100mSv未満の被ばく影響は検出不能
国立がんセンターは、放射線被ばくによるがんのリスクをHPに公開しています(1)。
https://www.ncc.go.jp/jp/other/shinsai/higashinihon/cancer_risk.pdf
これによれば、一度に100mSv未満の放射線を被ばくしても、そのがんリスクへの影響は統計的変動に隠れて検出不能とされています。すなわち、仮にリスクが増えるとしても、検出できない僅少レベルなのです。
或いは250mSvでも、肥満や運動不足と同程度のがんリスク増ですので、人命救助などの緊急時なら許容範囲と判断されるでしょう。これらの統計的事実は、放射線によるがんのリスクには閾値(不感帯)がある事を示唆しており、LNT仮説の妥当性を疑わせるものです。では、何故ICRPはLNT仮説から未だに脱却できないのでしょうか。
(4) マラー博士の実験は稀有の特殊事例
阪大名誉教授の中村仁信氏は、2011年に専門誌(月刊新医療)でマラー博士の実験とICRPのLNT仮説につき次の通り解説しています(2)。
www.health-station.com/new156.pdf
「1927 年 H.J. マラー博士は、ショウジョウバエのオスへのX線照射実験によりX線量と突然変異の発生が正比例することを発見した。そして一度の照射でも分割した照射でも、突然変異の発生率は同じ、すなわち総線量に正比例した。言い換えればDNA損傷は修復されることはなく、わずかな線量の影響もそのまま加算される、正比例だから直線になる、修復されずに蓄積するから微量の被ばくも無視できない。マラー博士はこの発見により1946年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。ICRPはこの実験結果が人間にも当てはまると考え、1955 年勧告に取り入れた。」
当時は、広島、長崎の惨事から未だ10年の記憶も生々しい時代であり、ノーベル賞受賞の衝撃的実験結果(LNT仮説)を十分な検証もせずに受け入れたものと推察されます。しかし、それが全ての間違いの元でした。その結果、「微量でも怖い放射線」の恐怖イメージが根強く定着し、ICRPは、そうした過去の遺物に自縄自縛になって抜け出せなくなっているのです。
(5) LNT仮説を全否定したDNA修復機能
しかし、その後の研究によりショウジョウバエのオスの精子は、DNA損傷修復機能を持たない稀有の特殊な細胞であること、よって、同修復機能を有する人間(のような高等生物)には適用できない事が判明しました。
この事実については、電力中央研究所が2004年に同じショウジョウバエでもDNA修復機能を有する未成熟なオスを使って同様の追試を実施し、閾値のあることを確認しています。更に2003年には、マウスによる長期照射実験(1.2mSv/時=10,500mSv/年照射)により、逆に免疫系に良好な影響があることすら実証しています。すなわち、DNA修復機能を有する生物(人間)ではLNT仮説が成立しない事が実験で証明されているのです(3)。
http://www.health-station.com/new161.html
https://criepi.denken.or.jp/research/review/No53/index.html
(6) 自然放射線レベルの400倍でもDNAに異常なし
同様の実験は、福島事故後の2012年にMITも実施しています(4)。
http://news.mit.edu/2012/prolonged-radiation-exposure-0515
自然放射線レベルの400倍(105cGy=1,050mSv/年)の放射線をマウスに5週間継続照射してDNAの損傷を検査したものの、全く異常は見つかりませんでした。
また、そのメカニズムを分析した結果、我々の細胞は通常(バックグラウンドレベル)の放射線環境下でも、様々な要因により保守的に見ても細胞当たり1日に1万回以上(平均8.6秒毎に1回以上)のDNA損傷を受けており、それが次々に修復されることで健康が維持されている(厳密には、修復に失敗する事もあるが、その場合には自然死:アポトーシスにより除去される)。今回の放射線レベルは、その損傷が数十回(dozen)追加になる程度なので、何の問題も無く修復される、としています。
すなわち、この修復機能の範囲内レベルなら、DNA損傷は累積せず、その都度リセット(解消)される訳です。したがって、これ以上実験を継続しても結果は変わらないと判断されたので、5週間で実験を打ち切ったのです。
更にこれらの結果から、現行の避難基準(自然放射線レベルの8倍)は過度に保守的との問題提起を行っています。同様の実験や分析は、これまでにもありましたが、最新のDNA検査手法を採用していることや避難基準に疑義を呈している点が注目されるのだとか。
(7) 年間7,000mSv強の被ばくでもDNA損傷は累積しない
以上の実験によりDNA修復機能の範囲内なら損傷の累積は起こらない事が実証されました。この点については、環境省も2015年にマウス実験を実施して、20mGr/日(=7,300mSv/年)と400mGr/日(=146,000mSv/年)の間に損傷累積の閾値がある事を明確化しています(平成26年度原子力災害影響調査事業)(5)。
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/reports/h2703c_3.pdf
すなわち、先ず低線量率・低線量放射線照射マウス実験により、0.05mGy/日の線量率では、400日程度の長期慢性被ばくでも、組織におけるDNA 損傷の蓄積は起こらないこと、また、1mGy/日〜20mGy/日までの線量率では、蓄積線量で最大100mGyの被ばくでも、BGのレベルを超えるDNA損傷の蓄積は無いことを確認しています。
次に、400mGy/日の中線量率放射線では、組織・臓器における明らかな DNA 損傷の蓄積が観察されたことから、これと20mGy/日までの間に損傷累積の閾値があると結論し、それ以下の低線量率・低線量放射線被ばくでは、『線量の蓄積』という概念を適用するのは科学的見地から適切ではないと断言しています。
(8) 宇宙飛行士には年間5Svの被ばくを許容
なお、これらの実験結果を補強する傍証のひとつに、宇宙飛行士の放射線被ばくがあります。国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、1日で地上の半年分にも相当する1mSv程度の放射線を平均的に被ばくしています(太陽フレア次第で数十倍になることもある)。もしLNT仮説が人間でも成立するのであれば、地球に帰還した宇宙飛行士は全員がんで早死にする筈です。
この点は、JAXAでも議論され、宇宙飛行士に対しては年間0.5Sv(30日なら0.25Sv)までの放射線被ばく(骨髄等価線量)を許容するとの暫定基準が制定されています (6)。
www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/004/006/shiryo/04121401/007.pdf
すなわち、JAXAでも長期被ばくについてはICRP基準を無視して、独自の基準を適用しているのです。
(9) 短期100mSv、長期1,000mSv/年の避難基準が合理的
以上のことから、短期的な放射線被ばくについては一度に100mSv程度、数ヶ月以上の継続的な長期被ばくについては年間1,000mSv程度を避難基準とするのが合理的と考えられます。
一度に100mSvまでの短期被ばくなら、がんリスクへの影響は検出不能なレベルで無視できます。また年間1,000mSv程度の長期被ばくなら、十分にDNA修復機能の範囲内でしょう(仮に一度に被ばくしても大量飲酒と同程度)。
なお、この長期基準は、「DNAの損傷修復は大半が放射線以外の様々な要因で日々定常的に発生しており、放射線の影響で多少頻度が増加してもDNA修復機能(閾値)の範囲内なら、損傷はその都度リセットされて累積する事は無く、また修復機能にも影響しない」との考え方が基本となっています(損傷頻度が多少増えても、次の損傷発生迄に修復が完了する範囲内なら修復結果は同じで影響は無い)。
すなわち、従来のLNT仮説を全面否定するもので、修復機能の閾値を超えなければ、がんリスクへの影響は皆無としています。これは、「例え無視できる程度だとしても、僅かでも被ばくに比例してリスクが増えるのなら、絶対に受け入れられない、よって、例え許容基準内でも自主避難するのは正当な権利」として損害賠償を請求する拒絶派への反証でもあります。
問題は、ICRPが年間1mSvの被ばく限度を未だに撤回しない事です。これがある限り、LNT信者の最後の砦として、LNT仮説の根拠にされます。
(10) 国際機関の言う事なら無条件に鵜呑みにする日本人
日本人はICRPなど国際機関の言う事なら無条件に鵜呑みにします。したがって、以上のような合理的提案についても、もしそれが妥当なものならICRPが採用する筈で、ICRPが認めないのは何か問題があるからだ、と考えるのが日本人です。
以上のような合理的避難基準が採用されていれば、先の福島事故の時ですら避難も除染も不要でした。そうすれば、強制避難による2次災害死は防げたことでしょう(放射線リスクより避難リスクの方が遥かに大きい)。ICRPは、以上のような合理的避難基準を制度化すべきです。